「いったぁぁぁ〜〜〜〜〜っぃ。」
やっと藍はスプーンを口から離した。その反動で俺は後ろへ倒れかけ、軽いしりもちですんだ。
「痛いのはこっちだ。バカ食い女。」
藍はずっと口を手でおさえている。
あれだけ口と手でひっぱりあってたもんなぁ。そりゃ痛いわぁ。
俺もあとから手がじんじん痛む。
さっきまでひっぱりあいになっていたスプーンをみると、少しスプーンの色がはがれていた。
おそるべし野生の王。
「いいじゃん、味見くらい。……おいしそうだったんだもん。」
俺の家の方向を見て、藍が言った。
「おいしそう」の言葉に今回は許してやるか。
「ハイハイ。わかった、わかった。許してやるから食え。」
俺は手をのばした先にティッシュがあったので、勢いよく藍の口元を拭いてやった。
「いたたたたた、痛い、痛いよ。つか、そこまで子どもじゃない!!自分で拭けるってば。」
藍は俺が持っていたティッシュを奪い取ると、雑に口を拭いた。
「顔中にカレーこぼしてるやつがそう簡単に拭けるか。」
「うっさい!!・・・・・・・・青、『お兄ちゃん』みたいだねぇ。」
こぼしたのが恥ずかしいのか、子ども扱いされたのがムカついているのかよくわからなかったが、眼をそらしている。
「俺はちゃんと兄だ。どっかの姉と一緒にするな。」
「あたしだってちゃんと『お姉ちゃん』してるもん。」と藍は口をとがらす。
「・・・でも、懐かしいなぁ。緋露はあんまり口元につけないし。」
「って、ことは何?あたしは緋露君の小さい頃以下!?」
「そーいうことだな。」
俺はポンッと藍の頭に手を置き、それから台所へ向かおうとした。
「あたし達、キョーダイだったら良かったのにね。」
ボソッと藍が言った。
その言葉に一瞬足が止まったが、
「俺もそう思う。」
ただ一言残して、俺は台所へ向かった。
兄妹・・・・・・。
正直複雑だ。兄妹なら少しは楽だったのかもな。
俺は自分が持って来た鞄から楕円形のものを取り出した。
「兄妹なら少しは諦めもついたかもしれないな・・・・・・。」
俺は鞄から出したものを手にし、藍のいる居間へと向かった。
俺が台所から居間へ向かうと、藍はカレーの三分の二は食べ終えていた。
「何とりに行ったの?」
さっきまでのはなかったことのように、明るく藍が聞いてきた。
「コレッ」
俺は勢いよく藍めがけて楕円形のものを投げた。
それを藍は額でキャッチ。
「っとに、もう!危ないじゃん!!」
「それはお前のとり方が悪いんだ。・・・・それやるよ。」
それ・・・・とは、数時間前に藍がものほしそうに見ていた・・・・・・
「愛媛蜜柑〜〜〜〜vv」
愛媛蜜柑が潰れるくらい顔におしつけた。
「中身がえぐれるぞ」と言って、藍はしぶしぶやめた。
そして、愛媛蜜柑を机に置いたかと思うと、急いでカレーを口にいれた。
おそるべし、胃袋。
カレーが皿についていないほどキレイに食べ、ゴクゴクと水を一気に飲んだ。
「そいやぁ、さ。緋露君やおじさんとご飯食べなくていーの?」
藍が愛媛蜜柑をゆっくりとむく。
「あいつは、水月ちゃんと一緒。父さんは島の会議で2,3日いない。」
「ふぅ〜ん。」
俺は「もう食べないのか?」と藍に確認をとってから、他の食器と重ねた。
「だーかーら、水月ちゃんがいなくて寂しがるお前に、こーしてわざわざ俺がいてやってんの。」
文句を言いそうな藍に俺はすかさず、
「あと、わざわざ料理まで作って。」と嫌味たっぷりに言ってやった。
「ご飯炊いたのは水月だもん。」
小さく反論。そして、
「今頃、緋露君と上手くやってるのかなぁ?」
「さぁな。」と短く返す。
さっき、藍を追いかける前に、水月ちゃんが泊まりで出かけるというので、無理やり緋露も行かせた。
行き先はわかっている。富村さん家だ。
富村さん家は家畜をやっている。
羊の貫太郎が今日子どもを産むらしい。
もっとも、それは富村さんが勝手に言っているだけで、本当に産まれるかは、わからない。
でも、この仕事を70年も続けている富村さんに言わせると、今日に絶対産まれるらしい。
そこで、前々から出産がみたいと言っていた水月ちゃんが、今日は泊まりで富村さんの家にいるってわけだ。
まぁ、俺にとっても、好都合。
決して緋露が邪魔だったという訳ではない。
むしろ、向こうへ行った方が緋露の為。そして俺の為。
・・・・・こんな兄ちゃんを許してくれよ。緋露。
「上手くやってるといいな・・・・。」
俺は愛媛蜜柑の白く薄い皮をとりながら言った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
――――――――兄さん。 僕は嬉しいのか、悲しいのかわかりません。
「でねでね♪ この間、暴れてたイノシシのピーちゃんを呼んだだけで止めたんだよvv」
・・・・・・・・・・・・・・。
水月ちゃんといるのが不満というのでは、ありません。
ただ・・・・・・・・・・・・・・・・。
「青都さんって、本当にかっこいいよねぇ〜〜vv」
兄さんのかっこいい話を聞くのはちょっと・・・・・。
僕は現在、富村さんの空いている部屋を貸してもらっています。
僕と水月ちゃんは襖でしきられて、声だけを頼りに、この暗い部屋で話をしてます。
1時に羊の貫太郎の子どもが無事産まれました。
水月ちゃんは泊まると言いましたが、兄さんに泊まれといわれても、僕は帰るつもりでした。
ですが、もう遅いということで富村さん夫婦に止められ、泊まることになりました。
あ、服も貸してもらって・・・・。
そして、現在にいたります。
「でも、貫太郎よかったね。私、感動しちゃった。」
「ホントだね・・・・・。」
それは本当。
実際、見てるだけで何も手伝えなかったけど、とっても感動した。
「ごめんね。私なんかに付き合ってもらって。」
いきなりの言葉。
田舎の夜はしんとして、よく声が通る。
「ううん。僕も見たかったし。」
「どうしても、藍ちゃんと青都さんを二人っきりにしたかったの。」
・・・・・・・・・・・今、なんて?
藍さんと青都兄さんを・・・・・・・・?
でも、水月ちゃん・・・・。
「青都兄さんのこと好きなのにいいの?」
すぐには言葉は返ってこなかった。
数秒の沈黙が流れる。
「青都さんのことは好き。大好き。でも、でも・・・。」
襖と暗さでどんな顔しているのかわからない。
声だけが頼り・・・・。
「藍ちゃんよりも?って、聞かれると・・・・。きっと、私は・・・・。」
今度は少しこもった声が返ってきた。
枕に顔をあててるんだろう・・・・・・。
「水月ちゃん・・・・。」
「私が藍ちゃんか青都さん、どっちが好きかってハッキリしたら。きっと告白できると思うの。」
・・・・・どっちも好きだという答えでいいじゃないか。
無理に好きの順位をつけなくてもいいと思う。
でも、それは水月ちゃんにとって、とても大事なことなんだ。
それだけ、藍さんの存在は大きい。
・・・・って、ことは。僕はその大きい存在にもなっていないってことだよね。
「水月ちゃん・・・・・?」
「変なこと言ってごめんね。忘れて・・・。」
また声がこもってる・・・・。
うつぶせに寝てるなぁ・・・・・・。
「水月ちゃん、まだその癖治らないの?」
「あぁ、うつぶせ? うん。やっぱりまだ・・・・。」
声は明るいけど、きっと表情は・・・。
見なくてもどんな顔してるかわかる。
水月ちゃんは、寝るときうつぶせに寝る・・・・・。
それが悪いんじゃない。
その寝方をするときは、いっつも。
「枕に顔をあてて声を殺しまで、僕の前で泣くことは恥ずかしい?」
僕がその癖を見つけたときは、幼稚園のお昼寝のとき。
そして、うつぶせの意味を知ったのは、その3年後の幼稚園のお泊り会のとき。
お昼寝のときは、こんな寝相なんだなぁ・・・・としか思ってなかったけど。
お泊り会のとき、水月ちゃんは、皆が寝ている間、必死に声を殺して泣いていた。
『お泊り』が怖い幼稚園児もいたから、そうなのかな?と思って、暗い部屋の中でこっそり聞いてみると。
「あいちゃんがないてるから。」
ただ、その一言だけだった。
小さかった僕にはなんのことだかわからなかったけど、
数年後、僕はその意味を知ることになった。
藍さんのことで泣けるほど、水月ちゃんの中での藍さんの存在は大きい。
青都兄さんと藍さん、天秤にかけたら、水月ちゃんはどっちを選ぶだろう・・・・・?
「もう、布団に入ると泣く癖がついたみたいだね。ホント、嫌になるよぉ。」
少し笑いながら、でも声は悲しんでた。
そして今度は真剣に。決意をかためた厳しい声で言った。
「忘れるな。っていうことなんだろうね。藍ちゃんはずっと私を庇っていてくれたことを。そして許しちゃいけない。あの人が藍ちゃんにしたことを。」

「だから、今からすること、藍ちゃんには言わないでね。」
そう言ったとたん、優しく、どこまでも透き通る声で泣いた。
富村さんたちに聞こえないように。でも、僕にははっきり聞こえる声で、泣いた。
兄さん。やっぱり僕は嬉しいのか、悲しいのかわかりません。
僕の前だけ泣いてくれるのは嬉しい。
だけど、この泣き声がとても切なくて、悲しくて・・・・・・・・・・・・・・。
僕まで泣きそうです。
僕は、天秤の対象にはならないと思うけど。
やっぱりこの人が好きです。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
あ、なんか今日は、男の子視点だったなぁ〜。
次はまた青都&藍の方に戻る予定。
『母親』のことについて語る?かも。
あぁ〜。 微妙な小説だなぁ〜。
そいや、今回の挿絵、水月の向き間違えたあぁぁ〜〜!!(叫)
ま・・・・、まぁ、気になさらず。
誤字・脱字などはあたたかく笑ってやって下さい(ォィ)
今のところ、間違いやすいのは緋露の『露』ですね。
『路』と『露』。 もう、どっちが正解なのか・・・・。
たぶん『露』の方が正解かと。
ってことで、ご意見、ご感想、ツッコミなどなど、どうぞお書き下さい♪
雨咲 みかんでした。